樽②
2016/11/23
前回は樽の産地や用途についてザックリ見ていきました。今回はもう少し掘り下げていきましょう。樽の役割は初期・後期の2段階に分けましたが、主に下記に挙げるものです。
《初期段階》ワインは微還元状態です。発酵過程で酵母により、有機酸とエタノールが反応してエステルが生成されます。酢酸エチル(酢エチ、V)、酢酸イソミアル、カプロン酸エチルは微量ですが、華やかでフルーティーな香りを構成する成分です。亜硫酸塩(SO2)やワインに含まれる成分に反応して溶存酸素が減少します。化学変化を促し、フェノール性の成分が形成され、香りが複雑になります。
樽材由来の風味成分(渋味成分のタンニンやバター、バニラ、ナッツ、コーヒー、スモーク香)が付与されます。気密性が低いのでワインに酸素を供給する事ができます。よってワインは、鮮やかで安定した色素となり、渋味が滑らかになります。
《後期段階》還元的硫黄化合物を生成するので過度な熟成は避けます。還元した場合は程度にもよりますが、一般的には滓引き、程度が酷い場合は、銅製の筒にワインを潜らせ、化学反応により強制的に還元から酸化に傾けます。
樽熟成(酸化) ⇔ 瓶熟成(還元)
樽熟成では好気的な環境の為、ワインには酸素が溶け込み酸化します。揮発してしまうので満量を保ち、気液の透過性が熟成に良い影響を与えます。一方、瓶熟成では嫌気的な環境の為、ワインは還元されます。ボトリングの時点で還元している場合は、この後、ワインは更に還元に傾きます。赤ワインの古酒やシャンパーニュは非常に還元率が高いのです。この酸化と還元は表裏一体で、生産者は常にその合間を行ったり来たりしています。樽、瓶、いずれも温度は10~15℃、湿度80%の暗室で熟成されます。
オーク材の産地やトースト加減(LT、MT、HT)、或いは年輪の幅や乾燥期間(樽を組み立てる前、2~3年間乾燥させることにより化学反応で香気成分オイゲノールが増加します)、最近では、ココアよりもコーヒーの香りを強く、バニラに白コショウの風味を・・・などの生産者の造り出したいものにカスタマイズする樽メーカーも出てきています。
参考文献:「ワインと科学」清水健一
「においと味わいの不思議」佐々木佳津子