プレパラート
先日はオーストリアの南シュタイヤーマルク、スロヴェニアとの国境に位置する町で、ワイナリーを営んでいるTAUSS (タウス)を訪問しました。シュタイナーの提唱する、ビオディナミ農法を取り入れた、作付け面積6haの小規模生産者です。人と自然の調和を重んじる当主タウスは、畑でもカーヴでも温厚で生真面目な人柄が随所に見られました。
過去の投稿記事ではビオディナミ農法のあらましについてお伝えしましたが、今回は種まきカレンダーと同じぐらいビオディナミを語る際に頻出する、調合剤ことプレパラート(プレパラシオン)についてです。プレパラートには500番から507番までの番号が付いており、各々の役割りは異なります。今回はタウスが言及した500番と501番についてです。
仏語 プレパラシオン Préparation
英語 プレパラート Preparet
500番のプレパラートは、活性化された微生物を介して情報を土に伝達して、土壌を豊かに蘇らせるプレパラートです。雌牛の角に牛糞を詰めて冬場、地中に半年間置いて土から情報を得ます。角は春に掘り起こされます。角内の牛糞は全く臭わず、触ると僅かに温かみがありました。(写真参照) その牛糞80~90g程度を雨水で希釈し、1時間かけて水流が渦巻を形成するように機械で(手動の場合もあり)攪拌させます。(ディナミゼーション)500番は畑を耕す前日の夕暮れに散布します。角4個分のプレパラートで、おおよそ1haの畑に対応できます。散布するとエネルギーが土壌へ移行し、微生物の活動が促進され、養分が根から植物へ、草から生きている牛の角にも行き渡ります。良い情報を土へ返す循環サイクル、牛は草を食べて排泄をして、それが土壌に戻るサイクルと同じです。牛の角はアンテナの役割があり、宇宙や自然だけでなく牛同士も情報の交換をしています。つまり、これが持続可能な循環型農業の姿なのです。
500番のプレパラートは秩序などの「横の力」に働くのに対して、501番のプレパラートは宇宙からの「縦の力」だとタウスは説きます。501番は雌牛の角に粉末にした珪石(石)を詰めて、春から秋に土中に埋めます。500番と同様に雨水に溶かし、畑に散布します。反射効果が高まり、15分もすれば光合成の為にぶどう木は太陽の方を向くそうです。植物も人間もこの縦と横の力がバランス良くあるべきだと当主は言います。ワインや自然の恵みは生きています。ボトリングされた後も瓶内で生き続けなければなりません。土壌、植物、動物の相互作用や循環、 縦と横の秩序を活かすのがビオディナミです。 昔ながらの農法、ワイン造りへの回帰であり、自然の法則を哲学しているタウスの姿に脱帽しました。
また、タウスの元ではワインに負担をかけない事を狙いとして、マスト(圧搾後のぶどう果汁)の移動は電動のポンプを使用せず、フォークリフトで自然落下させます。ポンプでの逆流は自然に反し、万有引力の法則では、物質は上から下に落ちるのが原理です。2004年に建てられた醸造所の壁にはマイクロ微生物(EM)が混ぜ込まれていました。微生物は壁の中でも生きており、それらは空間を綺麗に浄化する働きがあるそうです。建物自体が呼吸しているような感覚があり、そこにいるだけで清々しい気分になりました。
セラーではボトルや樽試飲で、土着品種を使用した直接圧搾法のロゼスパークリングRose Winzersekt 2014や醸しの長いシャルドネやソーヴィニョンブランなどのオレンジワインをテイスティングしました。どのワインも内に秘めるエネルギーが巨大でスケールの大きさを感じました。タウスにとって美味しいワインとは、自然の秩序が生きているかであって、結果、「美味しい!」と感じるのはそのエネルギーが伝わったという証拠との事。まさに彼のワインは、工場ではなく畑で造られた生きたワインでした。
偉大な生産者の最高のワインとその物語、このワインが選ばれない理由はどこにもありません。タウスのワインは現在、日本未輸入ですが、今秋に吉田マルガレーテが代表取締役を務める(株)FLOAが取扱い予定です。本当に素晴らしいワインなので、美味しいものは独り占めせずに、皆様ともシェアさせて頂きたいと思います。取扱店舗などが決定しましたら、またお知らせしますね。
長文乱文ではございますが、ここまでご覧頂きましてありがとうございます。次回もビオディナミ中心のお話となってしまいますが、お付き合い頂けましたら幸いです。